歯周病やむし歯、または事故などにより歯を欠損した場合には、歯の代わりを人工の歯で補う治療が必要です。
差し歯や入れ歯など、治療法の種類や違いについて自分にあった治療法の選び方をあなたは知っていますか?
この記事では、差し歯と入れ歯の違いや、歯を欠損した場合の治療法について解説しています。
これから治療する方や今の状態が気になっている方は参考にしてみてください。
入れ歯と差し歯の違いについて
歯が欠損した部分をそのまま放置しておくことは絶対にやめてください。
欠けたところから菌が入り炎症をおこしたり、噛み合わせが悪くなり歯並びに影響を及ぼしたりすることがあります。
そのため、その部分を補うために入れ歯や差し歯があります。
「入れ歯と差し歯は何が違うの?」とあまり分からない方も多いのではないでしょうか。
そこでまずは、入れ歯と差し歯の違いについて説明します。
入れ歯とは?
入れ歯とは、プラスチック素材で歯がなくなった部分を歯と歯ぐきの形をつくり人工歯で補う、取り外しが可能な装置です。
入れ歯には、ほかに歯が残っている場合につくる「部分入れ歯」と歯がまったく残っていない場合につくる「総入れ歯」の2つのタイプがあります。
部分入れ歯(義歯)
部分入れ歯には、となりの歯にバネを引っ掛けるタイプやバネを使わないタイプなど、大きく次の4つの種類があります。
- 金属バネを使用するタイプ
- バネのない部分入れ歯(ノンクラスプデンチャー)
- 磁石を使用する部分入れ歯(マグネットデンチャー)
- コーヌス入れ歯(コーヌスクローネ)
上記の中でも、主に金属バネを使用するタイプを指すケースが多いです。
総入れ歯(義歯)
総入れ歯とは、上下どちらかの歯がまったく残っていない場合に、使用する人工歯です。
骨格や歯ぐきにピッタリつくように歯ぐきの役割をする土台部分と、人工歯とで形成されています。
差し歯とは?
差し歯とは、「クラウン」や「被せ物」と呼ばれる補綴物(ほてつぶつ)で歯が欠損した部分を補い人工歯とするものです。
補綴物は、一般的に、金属合金や樹脂、セラミックスなどの素材で作られています。
歯の根っこが残っていないとできない
差し歯は、歯根に土台をたて、そこへ歯冠を装着して機能回復させる治療法であるため、天然歯の根っこが残っていなければ差し歯の治療はできません。
歯の根っこが残っていても差し歯治療ができないケースがある
歯の根っこが残っていても、歯根の状態によっては差し歯治療が行えず、抜歯となるケースがあります。
たとえば、歯根が折れていたり、ヒビが入っていたりする場合には抜歯せざるを得ないため、差し歯を入れることはできません。
入れ歯のメリット・デメリットとは?
入れ歯による治療法を選択した場合のメリット・デメリットを確認していきましょう。
入れ歯のメリット
入れ歯のメリットは次のとおりです。
- 取り外しが可能なため清掃がしやすく清潔を保ちやすい
- プラスチックを使用するため軽い
- 一本の欠損から製作が可能
- 保険適用の場合、治療費が安く済む
- 外科的な手術が必要ないため身体的負担が軽い
入れ歯は、失ってしまった歯の機能を回復させる治療として一般的な方法です。
保険適用では費用を安く抑えることができ、自由診療の入れ歯は高額になりますが、その分審美性や機能性の高い入れ歯をつくることができます。
また、外科的な処置を必要としないため、身体的な負担が軽く、高齢者や疾患のある方などにとっても安心です。
入れ歯のデメリット
入れ歯のデメリットは次のとおりです。
- 保険適用の部分入れ歯の場合、金属のバネが見える
- 保険適用の総入れ歯の場合、入れ歯の床に厚みがあるため熱を感じにくい
- 適切なケアがおこなわれないと、入れ歯が口臭の原因となってしまう
- となりの歯に負担がかかり、虫歯や歯周病になるリスクが高い
- 歯ぐきがやせるなど入れ歯が合わなくなった場合、作り直しが必要
- 自費で作製した場合、費用が高くなる
- 面積が大きいので慣れるまで違和感がある
保険適用の部分入れ歯では、装着する場所によっては金属のバネが目立ってしまうリスクがあります。
また、バネをかけた歯に汚れがたまりやすくなったり、脱着による負担がかかったりと虫歯や歯周病になる可能性が高くなります。
入れ歯も毎日の清掃が欠かせず、怠ると口臭の原因になります。
大きさに慣れるまで負担がかかったり、厚みのせいで熱が感じにくいなど不便さを感じることがあります。
差し歯のメリット・デメリットとは?
差し歯による治療法を選択した場合のメリット・デメリットを確認していきましょう。
差し歯のメリット
差し歯のメリットは、次のとおりです。
- 自分の歯を修復して欠損歯を補うことができる
- 保険適用の差し歯は比較的費用を安くに抑えられる
- 素材によっては、天然歯と変わらない審美性と強度がある
- 外科的な手術が必要ない
- 他の歯へに負担をかけない
- 違和感がほとんどない
差し歯の場合、自分の歯根に土台をたて歯を修復できます。
そのため、かみ合わせを改善しやすく、違和感もほとんど感じずに欠損を補うことが可能です。
保険適用の場合には、費用を安く抑えることができ、自費で作製した場合には素材の選択肢が増えて天然歯に近い審美性に加え、高い強度が期待できるなどメリットが多くあります。
差し歯のデメリット
差し歯のデメリットは、次のとおりです。
・素材によっては目立ってしまう
・歯の根っこが割れてしまうリスクがある
・差し歯が欠ける恐れがある
・自費で作製した場合は費用が高くなる
・接着されているので取り外しできない
・不具合があった場合は作り直しが必要になる
・クラウンと歯ぐきの境目に汚れがたまりやすく、手入れがしにくい
保険適用で差し歯を作製する場合、素材によっては目立ってしまうことが考えられます。
一方、自費で制作した場合は素材を選ぶことができるため審美性と機能面に優れていますが、費用が高くなるので経済的負担が大きくなります。
また、差し歯は永久には使えません。
素材によっては差し歯が欠けたり、歯根が割れたりといったリスクもあります。
クラウンと歯ぐきの境目に汚れがたまりやすいことから、むし歯や歯周病のリスクが考えられます。
むし歯や歯周病により、痛みや腫れなどの不具合が起こった場合には差し歯を外して治療を行う必要が出てきます。
差し歯の良さを取り入れた部分入れ歯もある
部分入れ歯と差し歯には、それぞれ異なったメリット・デメリットがあります。
複数の歯が欠損していて、差し歯として使える歯根が残っている場合に有効な治療法があります。
部分入れ歯と差し歯のそれぞれのメリットを、良いとこどりしたのが部分入れ歯の種類の1つでもある「マグネットデンチャー」です。
マグネットデンチャーとは
マグネットデンチャーとは、磁石の力で入れ歯の安定性を維持させる機能を持つ入れ歯のことです。
歯根が残っている歯に磁石をくっつけるための金属(キーパー)を装着させ、磁石を埋め込み入れ歯を作製します。
そうすることで、ある程度強い安定性を入れ歯に持たせることが可能になります。
ただし、側面からの力が加わった場合には外れやすいという特徴があるので注意しましょう。
マグネットデンチャーの条件
マグネットデンチャーは部分入れ歯ですが、基本的に歯根が残っている際に可能な治療法になります。
ただし、人工の歯根を歯槽骨に埋入するインプラント治療を行うことにより、歯根がない場合でもマグネットデンチャー治療が可能になります。
マグネットデンチャーのメリット
マグネットデンチャーのメリットは、残っている歯にかける負担が少ないことです。
通常、バネを利用した部分入れ歯の場合は、となりの歯にバネをかけることになるため脱着の度にとなりの歯へ負担をかけることになります。
また、バネの装着部分に汚れがたまりやすくなることから、むし歯や歯周病のリスクも高まってしまいます。
マグネットデンチャーの場合はそういった負担をかけないため、安心して使用できます。
使用している磁気の安全性
マグネットデンチャーに埋め込まれている磁石から発生している磁気は、口内以外の部分に影響を与えることはないといわれています。
そのため、ペースメーカーを使用していたとしても、問題なく使用ができます。
また、レントゲン撮影やMRIといった検査の際にも問題がないとされていますが、気になる場合は取り外しが可能なので、念のため検査の際には外しておくと良いでしょう。
マグネットデンチャーの費用について
マグネットデンチャーは保険適用の治療ではなく自費診療です。
そのため、通常の入れ歯の費用に加えて、磁石と磁性金属、それを埋め込む費用がかかります。
場合によっては、使用中の部分入れ歯に磁石を埋め込めるケースもあるので、歯科医師に相談してみましょう。
差し歯と入れ歯以外の選択肢
欠損した歯を補う治療法として、差し歯と入れ歯以外の方法には次の2つが挙げられます。
- インプラント
- ブリッジ
それぞれの特徴について解説していきます。
インプラントの特徴
インプラントは、歯の欠損した箇所の歯槽骨に金属製の歯根を埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療法です。
基本的には自費診療ですが、外傷や腫瘍などが原因であごの骨を失った場合や骨移植を行なった場合、先天的に歯やあごの骨がない方などについては、健康保険の適応が受けられるケースもあります。
天然歯に近い感覚で噛むことができ、人工歯の素材によっては見た目も天然歯に近い審美性を保つことができます。
ブリッジの特徴
ブリッジとは、橋(ブリッジ)をかけるように歯をつなぎ合わせて欠損した部分を補う治療を行うものです。
欠損した歯を補うために両隣の健康な歯を削って歯冠を取り付け、人工歯の土台にします。
ただし、土台となる歯の歯根がひび割れやグラつきといったの不具合など、しっかりしていない場合は、歯冠を取り付けることはできません。
インプラントのメリット・デメリットとは?
インプラント治療のメリットとデメリットについて解説していきます。
インプラント治療が気になっている方はぜひ参考にしてみてください。
インプラントのメリット
インプラント治療の主なメリットは以下のとおりになります。
- 残っている歯に負担をかけずにすむ
- 強く噛むことができる
- 取り外しの手間がない
- 自然で美しい見た目に仕上がる
- 違和感がほとんどない
インプラント治療は、必要な箇所のみに独立した治療ができるため、残っている健康な歯を削ったり負担をかけたりする必要のない点が大きな特徴です。
安定感があり、自分の歯に近い感覚で強く噛むことができます。
また、 審美性も優れているため、保険適用による差し歯治療の場合によくある不自然な色味になってしまったり、入れ歯のように金具が見えたりといったことのない点も大きなメリットであるといえるでしょう。
インプラントのデメリット
インプラント治療の主なデメリットは以下のとおりになります。
- 治療費や維持費が高額になる
- 治療期間が長くなる
- ケアを怠ると歯周病になり、抜けてしまうおそれがある
- 継続的なメンテナンスが必要
- 外科的処置が必要
インプラント治療のデメリットは、治療期間が長く メンテナンスも継続的に必要なことから、治療に必要な費用が高額になることです。
手術以外にも抜歯や経過観察などで通院が必要になり、他の治療法と比べると治療期間も長くかかります。
また、インプラントは治療を終えてからも、歯周病などから守り、長もちさせるために定期的なメンテンナンスが欠かせません。
日常的な口腔ケアでは取り切れない歯石や汚れを取り除くためにインプラント専用のクリーニングを続ける必要があります。
ブリッジのメリット・デメリットとは?
ブリッジ治療のメリットとデメリットについて解説していきます。
ブリッジ治療が気になっている方はぜひ参考にしてみてください。
ブリッジのメリット
ブリッジ治療の主なメリットは以下のとおりになります。
- 外科的手術の必要がない
- 治療期間が比較的短い
- 保険適用の場合、費用を安く抑えられる
- 違和感が少ない
- 自分の歯と同じ感覚で噛める
- メンテナンスしやすい
- 人工歯の素材によっては、高い審美性を回復できる
ブリッジには、装着したあとに違和感がほとんどないというメリットがあります。
また、保険適用の場合は費用を抑えることができ、自費診療の場合は人工歯の素材によっては見た目も自然な仕上がりにできます。
ブリッジのデメリット
ブリッジ治療の主なデメリットは以下のとおりになります。
- 健康な歯を削る必要がある
- 土台の歯に大きな負担がかかる
- 土台の歯の寿命が短くなる
- 土台となる歯の虫歯リスクが高まる
- 保険では人工歯の素材が限られる
ブリッジのデメリットはなんといっても健康な歯を削らなくてはならないことです。
削ることで土台となる歯の寿命は短くなってしまいます。
また、噛む力が加わることで負担がかかったり、人工歯との隙間に汚れがたまりやすいことからむし歯や歯周病のリスクが高まる点があります。
目的やニーズにあった治療法を選択しよう
差し歯と入れ歯の治療法の違いとそれぞれのメリット・デメリットに加えて、差し歯と入れ歯以外の治療法についても解説してきました。
人間の身体は食べたものでつくられているといいます。
歯は、その食事と密接に関わっており健康維持の重要な役割を担っているといえるでしょう。
歯が欠損してしまった場合は、できるだけ早く適切な治療法で補うことが大切です。
ご自身の歯と身体の健康のため、目的やニーズにあった治療法を選択していきましょう。