何らかの理由で前歯が折れたり欠けたりした場合、それを補うための治療方法として「差し歯」がありますが、差し歯治療ができない場合はどのような治療方法があるのでしょうか。
本記事では、失った前歯を補う治療方法について解説します。
結論として、ブリッジ治療の他に、入れ歯や近年人気のインプラント治療も可能です。
前歯は食べ物を噛み切ったり顔の印象や発音にも関係してくる大切な部分なので、慎重に検討しなければなりません。
前歯の役割や失う原因、対策方法についても詳しくご説明しますので、前歯の大切さを理解したうえで、ご自身に合った治療方法を選択していただけたらと思います。
前歯の役割
前歯は、全面の中心にある上下12本(上顎6本・下顎6本)を指し、生活において様々な役割を果たす歯です。
事故や虫歯など、何らかの原因で前歯を失った場合、生活にどのような不満が生じてくるのでしょうか。
まずは、前歯の主な役割を見ていきましょう。
食べ物を噛み切る
前歯の大きな役割は、食べ物を噛み切ることです。
前から1番目、2番目の中切歯、側切歯で食べ物を噛み切り、前から3番目の犬歯で切り裂きます。
前歯で噛んだ食べ物を奥歯(臼歯)ですり潰して細かくし、消化器官で消化しやすいようにしているため、それぞれの歯をバランス良く使いながら食事をしているのです。
そのため、前歯がなければ食べ物を適切に噛み切れず、消化不良を引き起こす原因にもなります。
顔の印象を左右する
前歯は審美面でも重要な役割を果たします。
最も見えやすい位置にあるため、口を開けて会話をした際や笑った際に顔の印象を左右するのです。
前歯がなければ顔のイメージが変わったり、老けて見えたりしてしまいます。
発音をしやすくする
前歯には、綺麗な発音で話す役割もあります。
正確に発音するためには、口から正しく空気が流れなければならず、前歯がなければ空気が漏れ、発音しづらいという問題が生じるでしょう。
特に「サ行」は前歯を擦り合わせて発音される音なので、うまく発音できない可能性が高いです。
発音ができなければ滑舌にも悪影響を及ぼすため、注意が必要です。
前歯が折れたら早期の治療が大事!治療は差し歯が最適?
前歯が折れたり欠けたりする原因は様々ですが、その状態を放置しているとメリットは1つもなく、審美面でも健康面でも悪影響が及びます。
前歯が破損した場合に多くの方が思いつくのは「差し歯」ですが、歯の状態によっては差し歯が適さないケースもあるのです。
まずは、差し歯の特徴やメリット・デメリットを見ていきましょう。
差し歯とは
差し歯とは、歯を削った後に被せる歯の被せ物で、「クラウン」とも呼ばれるものです。
歯の根っこの部分のみが残った状態のときにのみできる治療法で、歯の根に土台を入れ、その上に被せ物を被せます。
差し歯は素材によって保険適用内でできるものと適用外のものがあり、保険適用内であれば1本3,000円〜10,000円程度で治療が可能で、セラミックのように審美性が高い治療となると10万円前後です。
前歯を差し歯にするメリット・デメリット
前歯を差し歯にするメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・治療期間が短い ・プラスチック製だと保険適用になる ・自分の歯を残して治療できる | ・歯を削る必要がある ・保険適用外だと治療費が高額になる ・差し歯が割れる可能性がある ・保険適用内だと天然歯と色を合わせられない場合がある |
差し歯治療は治療が比較的簡単に行えるため、前歯をすぐ治療したい時に助かります。
また、プラスチック製であれば保険適用となり、治療費が安い点も大きな利点です。
ただし、差し歯治療は自分の歯が残った状態の場合のみ可能な治療法だという点を理解しておきましょう。
前歯に差し歯ができない場合の治療法は?
前述した通り、差し歯は歯の根の部分に土台を作って被せ物をする治療法であり、歯根がしっかりと残っていなければ差し歯治療ができません。
このようなケースの場合は抜歯が必要となり、以下の3つの治療法が考えられます。
- ブリッジ
- 入れ歯
- インプラント
前歯が抜けた・抜歯した場合の最適な治療法を選択するためにも、それぞれの特徴とメリット・デメリットを見ていきましょう。
ブリッジ
ブリッジは、歯を失った部分の両隣の歯を削り、それを土台にして一体型の被せ物を装着する治療法です。
歯を削るだけなので手術をすることがなく治療ができ、保険適用も可能となります。
ブリッジのメリット・デメリット
ブリッジのメリット・デメリットをご紹介します。
メリット | デメリット |
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・治療費用が安く済む ・治療期間が比較的短い ・入れ歯よりもしっかりものを噛める ・違和感が少ない ・取り外さなくて良い | ・他の健康な歯を削る必要がある ・歯を全部失っている場合など適応できないケースがある ・天然歯と上部構造との間に汚れが挟まりやすい ・不具合が起きた場合入れ歯よりも修理が難しい |
ブリッジは治療を行っている歯科医院が多く、失った歯の両隣に歯がある場合は治療しやすいです。
また、入れ歯よりも異物感が少なく、ものをしっかり噛めるでしょう。
ただし、他の健康な歯を削らなければならず、寿命を縮めてしまうことになります。
入れ歯
入れ歯は、歯がなくなった所の歯と歯茎の形を作って補う取り外しが出来る装置です。
一部の失った部分を補う部分入れ歯と、すべての歯を失った場合に使用する総入れ歯があり、前歯のみを失った際は部分入れ歯が適用されます。
インプラント治療のように大掛かりな治療は必要なく、早期に欠損部分を補える治療です。
入れ歯のメリット・デメリット
入れ歯のメリット・デメリットはこちらです。
メリット | デメリット |
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・治療費用が安く済む ・治療期間が比較的短い ・取り外しができるため掃除しやすい ・外科手術が必要ないため身体への負担が少ない ・取り外しができるためトラブルが起きても対処しやすい | ・痛みや違和感を感じやすい ・審美性に欠ける ・入れ歯の調整が必要である ・食べ物をしっかり噛めない場合がある ・入れ歯がずれたり外れたりする ・食べ物・飲み物の熱さや冷たさを感じやすい ・金具を使う場合、他の歯を傷つける恐れがある |
基本的に入れ歯は保険適用となるため、他の治療法と比べて費用が安く済むでしょう。
また、インプラントのように外科手術が必要なく、ブリッジのように他の健康な歯を削らずに治療ができるため、身体への負担が少ないのはメリットですが、外れやすいというデメリットもあります。
インプラント
インプラントは、虫歯や歯周病などで歯を失った場合に、代わりに人工歯根を骨に埋め込み、人口歯を装着して歯があったときの状態に回復する治療法のことです。
インプラントは、概ね以下3つのパーツで構成されています。
- インプラント体(人口歯根)
- 被せ物(人口歯/上部構造)
- アバットメント
治療法としては、まず歯がなくなった部分の歯茎にインプラント体と呼ばれる人口歯根を埋め込み、アバットメントという歯の土台となるものを装着します。
その上に被せ物を被せると治療が終了です。
インプラントのメリット・デメリット
インプラントのメリット・デメリットはこちらです。
メリット | デメリット |
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・審美性に優れている ・違和感や異物感を感じない ・噛む力が本当の歯と同じくらいまで回復する ・他の健康な歯に負担をかけない ・骨が痩せるのを防ぐ | ・治療費用が高くなる ・期間が長くなる ・外科手術が必要 ・定期的なメンテナンスが必要 ・全身の健康状態が悪い場合、治療できない場合がある ・骨の量が足りないときなど適応できない場合がある |
インプラント治療は機能面・審美面においても入れ歯やブリッジよりも優れていますが、保険が適用されないため、治療費が高額になる点や、外科手術が必要だという点を押さえておきましょう。
前歯を失う原因と対策
前歯を失った場合でも、差し歯だけでなく入れ歯、ブリッジ、インプラントなどの治療方法があるため、前歯を補うことが可能です。
しかし、天然歯と全く同じようにはいかないため、大切な前歯を永久的に使えるよう、様々な対策が必要になります。
前歯を失う原因や詳しい対策方法をご紹介しますので、あらかじめ理解しておきましょう。
重度の虫歯や歯周病
歯を失う大きな要因は虫歯と歯周病です。
比較的食べ物をすり潰す奥歯が失われる傾向にありますが、歯磨きの際は奥歯から磨き始める人が多く、意外と磨き残しが多くなるのが前歯です。
また、前歯の歯並びが悪いとブラッシングしても歯垢が溜まりやすく、ブラシの毛先が届きづらい場合があります。
上顎の前歯は乾燥しているケースも多く、唾液による再石化作用が働かず、虫歯や歯周病になりやすいのです。
対策①丁寧なセルフケア
虫歯や歯周病予防には毎日の丁寧なセルフケアが必要不可欠です。
歯ブラシだけでなく、細かい歯の隙間などの歯垢も除去できる歯間ブラシやデンタルフロスなどを使うのも効果的です。
対策②定期的なメンテナンス
セルフケアはもちろん大切ですが、1〜2ヶ月に1回程度の頻度で歯科医院でのメンテナンスを受けるのがおすすめです。
歯科医院では虫歯や歯周病のチェックだけでなく、専用の機器を使った歯のクリーニングも行ってもらえます。
定期的なメンテナンスを受けていれば、口腔内に異常があった際にもすぐに処置してもらえ、健康な歯を守り続けることができるでしょう。
転倒や衝突(外的要因)
転倒や衝突などによって口元が強い衝撃を受けて前歯が折れたり欠けたりする場合があります。
このような外的要因で前歯が抜ける、折れる、欠けるなどした際は歯科医院にて元の位置に戻して固定する処置ができる可能性もあるため、すぐに歯科医院を受診するのがおすすめです。
歯が折れた場合、可能な限りかけらをすべて探し、水などに漬ける、歯根が欠けた場合は牛乳に漬けるなど、乾燥しないように気をつけて歯科医院に持っていきましょう。
欠けた部分が大きかったり欠け方が悪い場合は元に戻せず、差し歯などの治療が必要になります。
対策①マウスピースをつける
スポーツ競技など、激しい接触の恐れがある場合、歯を守るためのマウスピース(マウスガード)を装着するのが有効です。
マウスピースには以下の効果が期待できます。
- 衝突などによる外傷を予防する
- 顎の関節の保護
- 噛み合わせが良くなり瞬発力を発揮する
- 歯ぎしりや食いしばりなどにより歯が削られるのを防ぐ
対策②硬いものを控える
硬いパンやせんべいなど、噛みごたえのある食べ物を噛み砕こうとして歯に強い負荷がかかり、前歯が折れたり欠けたりするケースもあります。
硬い食べ物ばかりを好んで食べるとこういった事態に陥りやすいため、控えるか、どうしても硬いものを食べたいのであれば、口に水を含んで柔らかくして食べるのがおすすめです。
ただし、一般的な食べ物の硬さでは歯が折れることはないため、歯に何らかのトラブルを抱えているのを疑った方が良いでしょう。
酸蝕歯(さんしょくし)
酸蝕歯(さんしょくし)とは、歯の硬組織であるエナメル質が、酸に侵蝕されている状態の歯を指し、日常的に摂取している食事や飲み物によって発生する、多くの人に起こり得る症状です。
前歯の酸蝕歯が進行すると、歯が黄色くなったり溶かされて欠けたような状態になったりします。
また、虫歯になりやすくなるため、歯科医院による早期発見・早期治療が望ましいです。
対策①酸性の飲み物に注意する
酸蝕歯の原因になりやすい飲食物は以下のようにたくさんあります。
- スポーツドリンク
- ワイン
- 酢
- 梅酒
- 炭酸飲料
- 柑橘系の食べ物
身体に良いとされるものも多く、これらを全て控えるとは言えませんが、酸が歯に触れる時間を少なくしたり、唾液や水で酸を中和したりするなどの対策が必要になります。
特に就寝中は酸性を和らげる中性作用のある唾液の分泌量が減り、酸蝕歯のリスクが上昇するため、寝る前は水やお茶などのアルカリ性に近い飲料を飲むのが望ましいです。
対策②日々のセルフケア
酸蝕歯対策として有効なのは歯磨きです。
特に、歯質を強化するフッ素などの成分が配合されている歯磨き粉がおすすめです。
また、歯科医院では専用の薬剤を用いて強化してもらえます。
酸蝕歯の初期症状として知覚過敏になる場合もあるので、違和感を感じた段階で早めに受診するのが良いでしょう。
対策③胃液が歯に触れたらすぐに歯をゆすぐ
酸蝕歯は飲食物に限らず、逆流性食道炎や嘔吐などの症状によっても、胃液が歯に作用し、酸蝕歯になるリスクが高くなります。
胃液が歯に触れた際はすぐに口をゆすぎ、酸を中和させましょう。
特につわりのある妊婦さんは注意してください。
前歯治療で後悔しないために理解しよう
前歯は見た目はもちろん、日常生活を送るために必要な部分の歯です。
前歯に差し歯治療ができないケースもあり、その場合は、以下の方法で前歯を補うことができます。
- ブリッジ
- 入れ歯
- インプラント
それぞれにメリット・デメリットがあるため、特徴を把握して自身に合った治療法を選択するのが良いでしょう。
どのような原因だとしても、それを放置すると口腔内に悪影響を及ぼす恐れがあるため、早めに歯科医院を受診するのがおすすめです。
また、大切な前歯を守る対策も行い、未然に防いでいただけたら幸いです。